【NEXT FUTURE】朝鮮大学校サッカー部 韓 勇岐(主将) × 文 仁柱(副主将)インタビュー


 2021シーズンの東京都大学サッカー1部リーグが開幕する。朝鮮大学校サッカー部は関東リーグ昇格を目指し戦ってきたが、これまでの3年間昇格を逃し、不本意な期間を過ごしてきた。関東リーグへの壁は高く、その一方で、その壁を超えられたとき、朝鮮大学校へもたらすであろう恩恵は計り知れない。

 今回の『NEXT FUTURE』企画では、今季朝鮮大学校サッカー部の注目選手である、韓勇岐選手(ハン・ヨンギ/主将)と、文仁柱選手(ムン・インジュ/副主将)に話を聞いた。
 今季の朝鮮大学校サッカー部(以下、朝大)で主将を務める韓勇岐(ハン・ヨンギ/体育学部4回生)は、東京朝鮮第一初中級学校サッカー部を経て、東京朝鮮高級学校サッカー部に入部。小・中ともに主将を務めた後、東京朝高サッカー部でも同じく主将を務め上げ、チームを見事「西が丘」(全国高校サッカー選手権東京都予選準決勝)へと導いた。
 「決してサッカーが上手い訳ではない」と話す本人は「突出した武器が必要だった」と、厳しいトレーニングを敢行し、当たり負けしない身体の強さと、攻守において献身的プレーを発揮する“大型ストライカー”へと変貌した。
 また、韓選手にはチームメイトから信頼される人望がある。4カテゴリー(小・中・高・大)を通して主将を歴任している事からも分かるように、その「ひたむき」な姿勢から周りからの信頼も厚い。
 そんな主将を副主将のポジションから支えるのが、MF文仁柱(ムン・インジュ/体育学部4回生)だ。
 正確かつ強力な左足を持つ"技巧派MF"は、埼玉朝鮮初中級学校サッカー部を経て、東京朝鮮高級学校サッカー部へ入部。常に1年生から主力として抜擢され、活躍し続けた。
 更には、2018年,2019年と2年連続で「東京都リーグ大学選抜」に選出。2020年1月には、タイで行われた『AFC U‐23 Championship2020』(東京五輪アジア最終予選)に臨む「U-23朝鮮民主主義人民共和国代表」にも選出された。
 テンポ良くボールに関わり続け攻撃のリズムを構築し、高い判断力で狭い局面も難なく打開する。また、攻守における球際も強く、サッカーIQの高い選手だ。
 今回はそんな二人にインタビューをし、これまでに歩んできた経緯や朝鮮大学校サッカー部の現状、自身たちの今後の夢について話を伺った。
   
強豪校とのレベルの差を痛感した、東京朝高サッカー部時代
   
ーー本日は二人が歩んできたこれまでのサッカー人生を振り返って頂き、朝鮮大学校サッカー部の現状や今後の夢について話を伺おうと思います。まず、二人はいつからのご関係なんですか?
   
:「インジュ(文選手)とは小学生の頃から試合を通して知っている仲でしたし、中学に上がってからも、選抜活動でずっと一緒にプレーをしていました」
 
:「中学3年の時に参加した中央大会(在日朝鮮学生中央体育大会)の決勝では、ヨンギ(韓選手)率いる東京第一と対戦したんですけど、それが一番記憶に残っていますね。僕たち埼玉が負けてしまい、東京第一が全国優勝をしました。ヨンギ率いるチームに負けてしまったのは悔しかったですね(笑)」
 
:「でも、当時の東京第一は周りのメンバーが良かったので、どちらかというと優勝させてもらったって感じでしたよ」
 
ーー二人は揃って東京朝鮮高級学校サッカー部に進学されます。そこではどのようなサッカー経験を積まれたのでしょうか。
 
:「僕は有り難いことに高校1年生の頃から試合に出場させて頂いていました。そこで自分の立ち位置を知れたのが大きかったと思っていて。というのも、小学校や中学校時代は、在日(在日コリアンサッカー界)の中での立ち位置しか測ることが出来なかったんですけど、東京朝高に進学してからは、全国から強豪校が集まる『イギョラ杯』や、『Tリーグ(高円宮杯 JFA U‐18サッカーリーグ東京)』を通じて全国レベルを体感することが出来ました。そこで、高校年代におけるトップと自分との間にあるギャップをイメージすることが出来て、もちろんギャップはあったけれど、周りと比較するなかで狙える距離だと感じたんです。このような経験を高校年代のうちに出来たのは本当に貴重な経験でした」
 
ーー高いレベルの中でサッカーに取り組めていたのですね。韓選手はいかがでしょう?
 
:「僕はインジュと違って、高校1年生の頃から試合に出るどころか、Aチームにも入ることが出来ていませんでした」
 
ーー悔しさや焦りがあったのでは。
 
:「同級生であるインジュがAチームで活躍する姿を見て、悔しさは当然ありました。ただ、だからといって焦ったりはしなかったです。当時の僕には突出した武器は無かったものの、身体的にはまだ伸びしろがあると感じていたので、常々『これからだ』と思って、トレーニングに励んでいました」
 
ーー文選手から見る高校時代の韓選手はどのような印象でしたか?
 
:「ヨンギ本人が言うように、高校1年生の頃から試合に出ている訳ではなかったし、チームの中でも決して上手い方ではなかったと思います。でも、そんな自分をしっかりと受け止めて、誰よりもサッカーに真剣に取り組んでいたし、Aチームに帯同し始めた高校2年生からは一気に変わった印象です。何よりも身体の強さが目立つようになりましたし、そこから自信を持ってプレーするようになったと思います。その姿勢があったからこそ、高校3年生の時には中心として試合に出るようになり、キャプテンも任されたんだと思います。例え、Aチームや試合メンバーに選ばれなかったとしても、腐らなかったその姿勢が最後の結果に繋がったんだと思います」
 
ーー共に試合に出場するようになり、感じたことはありましたか?
 
:「先程インジュも同じようなことを言っていましたけど、Tリーグでは挫折の連続でした。僕たちが最高学年の時、結果的に3勝しか出来なくて、自分たちの無力さを毎試合痛感させられました。とにかく圧倒的な差を見せつけられるなか、自分たちはどう戦えばいいのか、自分個人としての武器はどういったところに置けばいいのか、常に考えていました」
 
 文選手は早くからその才能を発揮したが、その一方で、韓選手にはなかなか芽が出ない時期もあった。しかし、その現実に腐ることなく、愚直に自身の課題と向き合い続けた。その結果、文選手とはまた違った才能でチームを引っ張るようになり、チームメイトから厚い信頼を受けるようになる。そんな韓選手に対し「僕には出来ない」と、尊敬の念を込めていたが、その気持ちは互いに同様であった。
目標は関東リーグ昇格 

ーーその後二人は朝鮮大学校へ進学することとなります。現在は4回生になり、共にチームを牽引する立場にあると思いますが、お互いにどのような役割を果たしているのでしょうか?
 
:「インジュには、代表経験もあって実績もあります。そして、1年の頃から試合に出ている数少ない選手でもありますから、特にプレー面においてチームを引っ張ってくれる選手です。インジュに憧れる後輩もいますし、チームのお手本となる選手だと思いますね」
 
:「ヨンギには、同級生や後輩関係なく人が集まってきます。そんなヨンギだからこそ発揮出来るリーダーシップがあって。例えば、強化期間の走りメニューの時でも、もちろんヨンギは先頭で走り切れる体力があるんですけど、それよりも早くゴールを切って、そのあとに休むことなく遅れている集団の所へ向かって、その集団を押し上げるように自分も一緒に走っていました。ヨンギは自然とそういう鼓舞の仕方が出来るキャプテンなんです。そういうキャプテンが最前線で身体を張ってくれるとチームは締まるし、得点を決めるとチームの士気は自然と高まります」
 
ーー互いに違った個性を発揮しながらチームを牽引しているのですね。今年のチームの特徴はいかがですか?
 
:「主力の大半が卒業し、これからはあまり経験を積めていない選手がチームの主力となります。僕自身もこれまでは先輩たちの胸を借りるつもりで自由にやらせてもらっていたんですけど、そういった意味でも今年はキャプテンとしてのプレッシャーを感じています。
チームの戦い方としては、どうにかして得点を奪って、皆でハードワークをし、守り切る。シンプルなことを行い続けて勝ち点を積み重ねるしかないと思っています。上下関係の良さや横との繋がりには自信があるし、サボる選手は誰一人としていないので、団結力を発揮したいです」
 
:「同じく、1部リーグを経験している選手が少ないなかで、自分とリーグとのレベルのギャップを掴めている選手は少ないと感じています。開幕はもう目の前ですけど、まだまだ積み上げるべきことはたくさんありますし、僕も伝え続けていきたいと思っています。
ただ、ヨンギも言うように、チームメイト一人一人との距離感が近いところは良い部分だし、そこを活かして粘り強い戦いをする。そうして勝ち点を積み重ねることが今年の鍵だと思います」
「僕たちはプロになるために朝鮮大学校を選びました

ーー両選手はプロになるという目標を持ちながら、トレーニングに励まれています。しかし、東京都1部リーグからのプロ輩出率は決して高いとは言えません。
 
:「関東リーグで戦う朝大に憧れを抱いて入学を決めたけど、一回もその舞台を経験することなく4年が経ってしまいました。そういった意味では、今までは思い描いた大学サッカーではなかったかもしれません。ただ、僕は朝大を選んだからこそ受けられた恩恵をたくさん頂いていて。例えば他の関東1部リーグの大学に進学していたら、1年の頃から試合には出場していたかはわからなかったでしょうし、ウリナラ代表(2020年にU-23朝鮮代表に選出)にも行けていなかったと思います。プロになるという目標を持ったうえで、マイナス要素はそこまで感じたことが無いし、結局は、プロとの練習試合であったり練習参加の時に如何にチャンスを掴めるかどうかだと思っています」
 
:「僕も同じ考えです。確かにより高いレベルに属していた方がプロになれる可能性は高まるだろうし、それに越したことは無いです。また、都リーグからプロに行ける選手は少ないし、前例も多くはないので、そこに関しての不安が無いと言えば嘘になります。でも、最終的にはカテゴリー関係なく、そのチャンスを掴む能力があるのかどうかが大事です。それに、そんな不安よりも、朝大でやりたいっていう気持ちが強いし、朝大からプロになることに価値を感じています」
 
ーー環境に左右されることなくプロになるという夢を具体的に描けると。
 
:「そうです。僕は大学に入ってから本格的にプロになりたいと思うようになったんですけど、その理由の一つとしては、兄であるヨンテ(いわてグルージャ盛岡:韓勇太選手)が朝大からプロになったり、他の先輩たちも同じような舞台に進んでいくのを見て、自分もなりたいと思ったのがきっかけでした。そこからは、どうすれば先輩たちのようになれるのかを、具体的に考えるようになったんです。なので、自分がどこに居るのかということは、今のところ関係無いと思ってますし、朝大だからこそ広げられる可能性があると思っています」
「在日の為に」その想いの根源には
 
ーーありがとうございます。それでは最後に今後の抱負をお聞かせください。
 
:「まずは関東リーグ昇格という目標を達成して、在日同胞の方々に良いニュースを届けたいです。そのなかで、個人としても出来るだけ早い段階でプロ内定を決めること。いまJリーグでは若い世代が少ないと言われているので、自分がそこに加わりたい。その為にラスト1年間はとにかく怪我なく継続して試合に出場し、アピールしていきたいと考えています」
 
:「チームの目標である関東昇格をチームとして達成させること。そこに向けて一年間やり続けます。個人としては、プロになること。これまで先輩たちがそうしてきたように、まだまだ朝大からもプロになれるということを証明したいです。なによりも、朝大からプロになることに意味があると思いますし、在日の方々が喜んでくれる。その為に絶対叶えたいです」
 
ーー「在日の為に」というその想いはどこから生まれてくるのでしょうか。
 
:「僕が代表に選ばれた時、埼玉の在日同胞の方々だったり、朝大の方たちが喜んでくれました。僕たちが頑張ることによって、そういった方たちに影響を与えることが出来るんだと感じたんです。そういった意味でも、僕はこれまでのサッカー人生のなかで、してもらってばっかりだったので、これからはプロになって恩返しをしたいです」
 
:「ウリハッキョは特別です。どこの地域であろうがウリハッキョが躍進すれば在日同胞全員が喜んでくれます。高校時代、西が丘での準決勝も負けはしたものの、高校生である僕たちをたくさんの方たちが応援してくれました。その時に、僕たちと在日同胞との繋がりを実感したというか、またこの体験をしたいなって思ったんです。だからこそ、僕たちが朝大からプロになって、後輩たちに可能性を示すと同時に、朝大の存在意義をアピールしたいです」
 
 「朝大からプロに行くことに価値がある」「サッカーの力で在日同胞を活気付けたい」。
 これらは彼らが持つ共通の意気込みでもあり、今まさに挑戦しているテーマだ。「必ず叶う」などといった確約が無いなか、そこに勝負を挑み、なんの戸惑いも無く自分たちの気持ちを表現する姿が印象的だった。
  
 何故このような気持ちが芽生えてくるのか。それは、彼ら自身の原体験がこのような価値観を形成させているのであり、その原体験から、自身たちの目指すべき道や頑張る目的を見つけ出しているからではないだろうか。
 彼らは自分たちが奮闘することによって、喜んでくれる人たちがいると信じているのだ。
  
 明日、4月11日(日)に東京都1部リーグが開幕し、関東リーグ昇格を懸けた勝負が始まる。そして、主将・韓勇岐、副主将・文仁柱の挑戦も、大一番を迎えようとしている。
 これからも、朝鮮大学校サッカー部と彼らを応援し続けたい。