今回のインタビューでは、引退を決断した背景や、自身のプロサッカー人生を振り返って頂き、金氏がこれから目指す「人生の在り方」まで包み隠さず話していただいた。いま夢や目標を追っている人たちにとって意義のあるインタビュー内容となっている。
挑戦は始まったばかり。これからの人生に想いを馳せる金氏の「今」について聞いてみた。
引退を決断した理由は「人生をより豊かにするため」
ーー8年間の現役生活、本当にお疲れ様でした。今の心境を率直にお聞かせください。
金:「ありがとうございます。今年の3月に引退を発表して次の生活が始まったばかりなので、忙しい日々を過ごしています。そういった意味では引退して間もないですけど上手く気持ちを切り替えることが出来ていますね」
ーー現役を引退することになった背景にはどのような思いがあったのですか?
金:「去年に契約満了を言い渡されたんですけど、その時はまだ現役として続けていくつもりで。諦めたくないという気持ちもあったし、シーズンが終わった後も上を目指すためにトレーニングを行っていました。チームも探していましたし、J以外のカテゴリーで地域リーグ等オファーをくださっていたチームもありました」
ーーそうなんですね。そこから何故、引退を決断するまでに至ったのですか。
金:「この気持ちを上手く表現出来ないんですけど、心に火が付かなかったといいますか。自分の中では『まだ出来る』という感覚があったし、Jの舞台に戻りたいという気持ちがあったんですけど、いざ練習に参加してみると以前のようなモチベーションが湧き上がってこなくて」
ーー複数のチームから入団を打診されていたんですね。
金:「そうですね。詳しくは言えないですけど、一つは、サッカーとビジネスの両面にエネルギーを注ぐクラブで、とても魅力的でした。ただ、自分にそれが出来るのかというと話は別で。皆さん本当に優秀で素晴らしく、ここでやりたいとも思ったんですけど、どうも自分には合ってないというか。特に、僕はこれまでの8年間をプロサッカー選手という、一般社会とは離れた場所で生活してきました。22歳新卒でビジネスを始めた他の皆とは既に8年の差があるんですよ。おそらく同年代だったら成績を残し、重責を任されている人も多いと思う。自分としてはそこの差を少しでも早く埋めたいし、その為にはビジネスに舵を切った方が自分の人生において良い方向に進むんじゃないかと。そこからサッカーを辞めて、ビジネスで頑張ろうと思うようになりましたね」
ーーそのような背景があったのですね。まだ間もないですが、自身の決断に後悔や思い残すことは無いですか?
金:「ないです。というのも、この決断は『もう無理だ』とか『辞めたい』というネガティブなものではなくて、『これからの人生を豊かにするためには』というポジティブな感情からの決断なので、気持ちはすっきりしていますし、もう次に向かえているんです」
「人生をより豊かにする」
金氏は他の誰でもない自身の感情に従い、プロサッカー人生の8年間に終止符を打った。何にも代えがたいプロとしての時間は、金氏にとってどのような意味を成しているのだろうか。
思い描くようなプロサッカー人生ではなかった。でも…
ーーこれまでの長いサッカー人生を振り返るなかで特に印象に残っている出来事やエピソードはありますか?
金:「一つ目としては、2013年当時JFLだった福島ユナイテッドでのデビュー戦ですかね。相手はJ2から降格してきた町田ゼルビアだったんですけど、観客は約8000人と、JFLの中ではかなりの数が入っていて、これまでの学生サッカーでは経験することのなかった高揚感を味わえることが出来ました。個人的にもその試合でアシストを記録し、チームは勝つことが出来て、今でも強く印象に残っていますね」
ーー8年前のデビュー当時のことを鮮明に覚えてらっしゃるんですね。
金:「そうですね、鮮明に覚えています。あともう一つ印象に残っているのは、ヴァンラーレ八戸に移籍した2018年なんですけど、チームにはその年に必ずJ3に昇格させたいという強い決意があって。個人的にも、Jクラブライセンスを保有するチームでのプレー経験が無かったので、初めてJ昇格をかけてプレーすることになったんです。だからこそ、その目標に対して本気でシーズンを戦い続けましたし、僕もチームの主力として必死に取り組みました。その結果、昇格することが出来て、本当に嬉しかったのを覚えています。昇格が決まった試合や、ホーム最終戦では、たくさんの観客が入って盛り上がりましたし、その光景は今でも忘れません」
ーー2018年の昇格の背景には強い決意があったのですね。その一方で金氏は現役引退コメントで「子供の頃から思い描いていたプロサッカー人生とはならず、常につらい事、苦しい事の連続でした」と発言されていました。このコメントにはどのような想いが込められているのでしょうか。
金:「福島ユナイテッドに入団してからの3年間は、コンスタントに試合に出場し、得点を決め、自分が思い描くようなチームの主力選手としてチームに貢献出来ていた。ただ、その後の5年間というのは、試合も主力級に絡めず、怪我も多くて、思うようなキャリアを歩めていなかった。そういった意味でも僕のプロサッカー人生はほとんどが辛く苦しいことばかりだったので、あのようなコメントが出てきたんだと思います」
ーー味わった苦しい経験というのは、今後の人生において必ず活かされる時が来ると思います。そこについてはどのように捉えていますか?
金:「僕が試合に出られなかったのも、怪我をしてしまったのも、全て自分の責任だと思っていて。怪我に関しては筋肉系が多くて、繰り返さないように自分で補強してみたりだとか、根本的な身体の使い方を工夫してみたり、色々と試していました。それでも上手くいく確率の方が低くて。ただ、このような試行錯誤はサッカーだけじゃなく、ビジネスの世界でも必要な過程ですよね。上手くいなかった時に、自分で改善点を洗い出して実行する。それでも駄目だったら、また別の仮説を立てて実行する。こういった思考法はこれからに活きてくると感じています」
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