【NEXT FUTURE】FC KOREA 鄭晃二選手インタビュー


 東京都社会人リーグ2部に所属する、FC KOREAの鄭晃二選手(チョン・ファンイ/20歳)は、神戸朝鮮高級学校(以下:神戸朝高)を卒業と同時に「サッカーで食べていきたい」という夢に区切りをつけ、サッカー人生に終止符を打った"はず"だったが、いま日々ボールを追い続けている。

 

 鄭選手が高校3年生に進級する2018年。“神戸のサッカー”に新たな風を吹かせるべく、在日本朝鮮人蹴球協会からの派遣により、尹明進氏(ユン・ミョンジン/神戸朝高サッカー部監督)が監督に就任。その新たな風に巻き込まれた1人が鄭選手だった。

 鄭選手は当時についてこう話す。「ユンミョンジン監督と出会って劇的にサッカーが楽しくなりました」。尹監督のもとプレーするようになった鄭選手はこれまでに出会わなかったサッカー観と出会い、サッカーの奥深い楽しさを感じるようになっていた。

  

 しかし、高校を卒業する際には自身の決断により「サッカーを辞める」という選択を下した。鄭選手はサッカー人生に終止符を打ち、トレーナーになるという志のもと、仕事をしながらも日々の勉学に励んでいた。そして、その生活にも馴染みちょうど1年が過ぎた頃、尹監督から思いもしない連絡が入った。

 「FC KOREAが選手を探しているらしい。また本気のサッカーやってみるか?」

 自身の本音を突かれた瞬間だった。悩みに悩んだが、鄭選手が出した答えはイエス。意を決して上京することを決めた。

高校卒業1年を経て、FC KOREAに入団した理由


ーーFC KOREA入団にはどのような経緯があったのでしょうか。
  

:「高校を卒業時に、ユンミョンジン監督からはサッカーを続けてほしいと、色々な選択肢を提案してくださっていたんですが、自分なりに考えた結果、サッカーを辞める決断をしました。その後はトレーナーを目指しながら日々の仕事と勉強に励んでいたんですが、卒業してからちょうど1年が経った頃、ユンミョンジン監督から突然連絡が入り『FC KOREAでプレーしてみるか?』と、言われたんです」

  
ーー驚きがあったのではないでしょうか。
  
:「そうですね。驚きもありましたが、正直嬉しい気持ちもありました。心の底ではまだやりたいなと思っている自分がいたので。その分、東京に行くかどうかは相当悩みましたね」
  
ーー入団するにあたって決め手となったのは、どのよう部分でしたか?
  
:「まずは、ユンミョンジン監督から言われたということが自分の中で大きかったですし、何よりも、FC KOREAという在日コリアントップのチームでサッカーをやってみたいという気持ちが強かったです。振り返ってみると、卒業する当時は大学に行くことが難しくサッカーの道が閉ざされた感覚がありましたけど、その一方で、入団を決めた時は『社会人で本気でプレーする』選択肢もあるんだと、改めて感じた瞬間でもありました。あと、東京に行き色々な価値観を持った人たちに出会えれば、人としての成長も出来るんじゃないかと、FC KOREA入団を決めました」
   
ーー社会人リーグでプレーするにあたって、生活面などの不安はなかったのでしょうか。
  
:「もちろんありましたが、FC KOREAスタッフの方が、仕事や住居に関して細かく相談に乗ってくださり、クラブとしての全面的なサポートをしていただき、『社会人で本気でプレーする』ことが可能になりました。本当に有り難い環境だなと感じています」
   
 「サッカーで食べていく」とは、プロサッカー選手になることだけが全てではない。Jリーグ以外にも、魅力的な戦いを繰り広げているリーグが存在し、社会人リーグにおけるクラブの在り方は千差万別だ。そしてそのバックグラウンドの多様さが、社会人リーグの“面白み”でもある。
高校サッカーと社会人サッカーの違い
   
ーー昨年からFC KOREAでプレーしている鄭選手ですが、社会人リーグで繰り広げられるサッカーにはどのような印象を抱きますか?
  
:「高校時代とはまったく違ったサッカーだと思いますし、高校の時も自分たちなりに頭を使っていましたが、社会人リーグではより考えてプレーすることが求められます。あと、FC KOREAには朝鮮大学校サッカー部のレギュラーとして活躍していた先輩たちがたくさんいて、自分のプレーに対してその都度アドバイスをくれるので、毎日勉強になります。ただ、アドバイスされるということは、まだまだ自分のプレーが至らないということなので、今年は去年の自分を超えられるようなパフォーマンスを発揮したいです」
  
ーー鄭選手は高校を卒業し FC KOREAに入団していますが、その他の多くの選手たちは大学サッカーや他のカテゴリーでのプレーを経験しています。「経験の差」による適応の難しさもあったのではないでしょうか。
   
:「そうですね。サッカーのレベルの高さももちろんですが、メンタル的な部分でまだまだ順応力が足りないと思います。コミュニケーションの取り方ひとつもそうですし、周りの意見に対する自分の受け取り方、試合への入り方など、まだまだ経験すべきことはたくさんあります。逆に、同世代の大学生たちとはまた違った貴重な経験が出来ているというメリットも感じながら日々生活出来ています」
   

ーーそのようなことを踏まえ、今年はどのようなシーズンにしたいと考えていますか。

   
:「今はサイドバックとして出させてもらっているんですが、年齢的にも僕が一番若いですし、体力もあるので、その優位さを活かし、ピッチを縦横無尽に走ってチームに貢献したいです」
  
ーー自身の克服すべき課題は。
   
:「メンタル的な部分ですね。試合ごとにパフォーマンスのバラつきがありますし、試合の入り方が悪ければ、そこから負の連鎖に入ることがあるので、もっと精神的に強くなってタフなプレイヤーになれるよう、今年は取り組んでいきたいと思っています」
  
 同世代が「大学サッカー」で経験を積んで行くなか、鄭選手は“経験多彩”な選手たちに揉まれ、日々成長している。
 「社会人サッカー」でプレーするうえで、一つの醍醐味となるのが「仕事との両立」だ。「社会人として成長したい」と話す鄭選手は、サッカーと仕事の両立について、どのように考えているのだろうか。
サッカーと仕事の両立から見いだすやりがいとは
   
ーー1週間のサイクルの中で、サッカーと仕事の両立を図ることは簡単なことではないと思います。
   

:「週に4~5回チームの活動があるなかで、それ以外の時間で働かせてもらっているんですが、充実しているというのが正直な気持ちです。もちろん日程的にしんどい時もありますが、僕の職場の先輩はFC KOREAを全面的に応援してくれ、理解してくださっている方なので、とても有り難いです」

   
ーー普段の仕事においても、社会人として学べることがたくさんあるのではないでしょうか。
   
:「そうですね。僕は飲食店で働かせてもらっているんですが、色々な人がお客様として来られます。そこにはもちろん在日コリアンの方もいれば、日本人の方もいらっしゃって、そういったなかで社会勉強をしたり、こんな考え方もあるんだなと、新しい発見に出会うこともあります。気付きとしては、仕事が楽しく充実していれば、それに伴いサッカーも楽しくなるということです。今の環境に本当に感謝しています」
   

ーー「サポートしてくれている方たちの為に頑張りたい」。そういった想いも湧いてきそうですね。

  
:「もちろんあります。FC KOREAが昇格すれば、仕事面でサポートしてくださっている先輩も喜んでくれるだろうし、地元神戸で応援してくれている友達や家族、このような機会を与えてくれた方たちにも喜んでもらえると感じています。僕一人として出来ることは少ないですけど、個人としてチームに貢献し、東京都1部に昇格したいです」
   

ーー大変なことも多くあると思われます。そんな中、サッカーと仕事を両立するにあたって受けられるメリットはどのようなことだと思いますか?

   
:「難しいですが、同じ時間を過ごしながらも倍の経験を積むことが出来る。そこに良さがあると感じています」
   
 高校を卒業しサッカーの道を断念した18歳の頃。まさか自分が上京し、「社会人フットボーラー」としてFC KOREAで奮闘しているとは思ってもいなかっただろう。「あの選択に後悔は無い」と話す鄭選手は今、どのような未来を描いているのだろうか。
今ある環境を全力で
  
ーー鄭選手は今どのような目標や未来を描きながら日々を過ごしていますか。
   
:「正直、長期的なことはあまり考えていなくて、いま与えられている環境で成長していきたいし、今しか出来ないサッカーを全力でやりたいと思っています。今年でFC KOREAの一員になって1年が絶ちましたが、今後も在日コリアントップのチームにいるんだという自覚を持って、地元神戸の人たちに良いニュースを届けたいです。とにかく今ある環境に感謝して、今しか出来ないサッカーを楽しみたいと思います!」
   
ーーありがとうございました。これからの活躍を応援しております。
   
 未来の夢にエネルギーを注ぐ者は大学生プレイヤーだけではなかった。
 いま若きフットボーラーに与えられている選択肢は多様に広がり、そこに秘められた可能性も充分にある。しかし、その環境が「当たり前」だと思った瞬間に、そこに秘められた可能性も縮減してしまうのではないだろうか。
 サッカーの道を諦めた経験がある鄭選手だからこそ、今ある状況への有り難みを噛み締めているように伺えた。
   
 FC KOREAは今シーズン、東京都1部昇格に向けて戦うこととなる。神戸出身の若き社会人フットボーラー・鄭選手はチーム悲願の昇格に貢献することが出来るのだろうか。FC KOREA・鄭晃二選手に注目だ。