【Jリーグ史上最速優勝「28戦無敗」を成し遂げたブラウブリッツ秋田の強さとは】韓 浩康 選手インタビュー


 ブラウブリッツ秋田がJリーグ史上初の快挙を成し遂げた。ヴァンフォーレ甲府が持つJリーグ連続無敗記録24試合を超える「28試合無敗」という新たな記録を打ち立て、更にはJリーグ史上最速の「優勝&J2昇格」と、前代未聞の強さを発揮した。

 ブラウブリッツ秋田は2017年にリーグ優勝を果たすも、J2ライセンスを保持していなかった為、J2昇格を見送られていたが、ライセンスが交付されている今季は、実力とクラブマネジメントの両輪で勝ち取った“正真正銘”のJ2昇格だ。

  

 今季、吉田謙監督率いるブラウブリッツ秋田はサッカーの「基本原則」を徹底的に突き詰めたサッカーを見せ付けた。チーム組織が団結し、強固な守備を築いて攻撃に転じた途端「素早く、適切に」ゴールへ向かう。そして、このルーティーンを愚直に繰り返すのがブラウブリッツ秋田の脅威であった。それは「数字」にも明確に現れており、失点数は「8点」(J3リーグ優勝当時)と、リーグ断トツの守備力を誇る。

 そして、その「守備力」と「組織力」を形成するにあたって常に中心に居たのが、CB韓 浩康 選手(27歳)だ。

 優勝を決めた後の、韓選手のインタビューをもとに、ブラウブリッツ秋田が何故ここまでの強さを表現し続けることが出来たのかを紐解いていきたいと思う。


吉田謙監督が提示し続けた指針

ーーまずは、J3優勝おめでとうございます!今の気持ちをお聞かせください。


韓 選手:「素直に嬉しいです。3年前に優勝した時はJ2ライセンスの関係で昇格出来ず、複雑な思いも正直ありましたが、今回は昇格の伴った優勝ということもあり、より一層嬉しいです。

 それに、今年は特に新型コロナウイルスの影響でリーグの開催自体が危うかったので、たくさんの方々の支えがあって自分たちは成り立っているんだということを、より痛感しました。プレー出来ることへの感謝と、支えて下さった方々への感謝の気持ちでいっぱいです」


ーーブラウブリッツ秋田が「無敗優勝」という偉業を成し遂げた一つの要因として、リーグ最少失点を誇る「強固な守備」が挙げられると思います。秋田のディフェンスリーダーでもある韓選手は、この結果をどのように振り返りますか?

  

韓 選手:「まず、今年の秋田の結果が示した通り、フットボールにおいて守備がどれだけ大事かを再確認できたと思います。その前提のなかで、監督が守備戦術に対して明確に提示してくれているし、その姿勢も自信に満ち溢れていてブレなかったことが、大きく影響したと感じています」

  

ーー守備戦術が明確に提示されたことが、結果にも大きく反映されたんですね。

 

韓選手:「そうです。それに対して選手も応えようとしていましたし、各々の能力やスタイルを理解する為にこまめにコミュニケーションを取っていました。それらを『勝利』という目標から逆算して、チームの戦術にうまくフィットさせることが出来ていたと思います」

   

ーー具体的には、どのような指針を提示されていたんですか?


韓選手:「何よりも監督が普段から口酸っぱく言っていたのは、フットボールの基本のところです。監督は球際のことを「魂際」と呼ぶんですが、この「魂際」・「切り替え」・「走力」の3つに一番のこだわりを持っていたし、僕たちもそこに応えることによって、フットボールの基本が如何に大切なのかを痛感し、勝ち点獲得に不可欠な要素だと身に沁みて感じたシーズンでもありました」



チームの「組織力」を高める為に韓選手が意識した2つのマインド

ーーチームで戦術方針に呼応出来るかどうかはチームの「組織力」も重要なテーマになると思います。


韓選手:「そうですね。組織力は試合をする毎に高まっていった感覚がありますね。秩序が乱れることはなかったし、全員がどういうプレーをするべきか理解して体現できていました」

   
ーーチームの組織力を高めていく過程で韓選手はどのような事を意識していましたか?
   
韓選手:「僕が意識していたことは2つあって、一つは起こること全てに対して他責するのではなく、自身に目を向けて取り組む事を意識しました。
 他人に何かを求める前に、自分が向上していくには何が必要で、チームに何を求められていて、自分がハイパフォーマンスを発揮するにはどうすれば良いのかを常に考えました。それが結果的にチームにとってプラスになっていましたし、自分にとっても大事なことでした。だからこそ、無敗だからと浮かれることなく1日1日のトレーニングに全力で取り組めていたんだと、確信があります」

  

ーーなるほど。もう一つは何でしょう?


韓選手:「二つ目は、チームに少しでも緩い空気感が流れないように、常にアンテナを張ることを意識していました。もちろんこれだけ結果が出ていると楽しいし、チームの雰囲気も明るくなります。それ自体は凄くいい事だし、その勢いに上手く乗れた部分もあります。
 ただ、それとはまた違うような緊張感の無い雰囲気や、やってはいけない言動が出てきてしまった時には、躊躇なく指摘をしようと心がけていたし、そうすることによって自分にも責任が生じて、自ずと兜の緒を締めることが出来ていたと思います」


優勝メンバーの一員として戦えたことは自信に繋がる
ーー自身のこれまでのキャリアを振り返ったなかで、今回の「優勝」は韓選手の今後のキャリアにどのような影響を与えそうですか?
   
韓選手:「秋田でプレーしながら常に上のカテゴリーでプレーすることは意識してきましたし、それは選手である以上当たり前のことだと思っています。その為には圧倒的な実力と結果が必要だということは常に頭の中にあって、今以上に、もっともっと向上していかないと、より良いキャリアは掴めないだろうなと思います」
   
ーー「まだまだこれからだ」だということですね?
   
 韓選手:「その通りです。でも、今年のこの優勝は今後の自分のキャリアにおいてポジティブな影響を与えることには間違いないし、優勝メンバーの一員として戦えたことは自信にも繋がりました」

 

朝鮮代表のユニフォームを身に纏いたい

  

ーー韓選手は自身のサッカーキャリアを通して、在日同胞やサッカーを続ける後輩達に伝えたいことはありますでしょうか?


韓選手:「今もそうですが、在日同胞には諦めること無く困難に立ち向かって来た歴史があります。その歴史と僕のサッカーキャリアを結び合わせた時、僕は特別上手くもないし、センスが飛び抜けているわけでもない。出れない時期や苦しい期間もたくさんありましたが、落ち込むことはあっても、諦めることは絶対にしませんでした。
 そういった意味でも、在日同胞の歴史同様に、最後まで諦めず努力し続ければ夢は叶うということを、自分のプレーや言動で後輩たちに示していきたいです。特に今ウリハッキョ(日本にある朝鮮学校)に通う後輩たちには、ウリハッキョ出身の自分がプロの舞台で活躍する姿を通して、『自分たちもできるんだ!』という希望を持ってもらいたいですね」
   

ーー最後に、今回の優勝を祝してくれている、ブラウブリッツ秋田のファンサポーター含めた方々へ、メッセージをお願いします。

   
韓選手:「在日同胞のみならず、たくさんの日本の方々、ならびにブラウブリッツ秋田のファンサポーターの方々を僕達のことを応援してくれていますし、おかげ様で、『スポーツに国境はない』と心から思うことが出来ました。本当に感謝しています。
 これからは手と手を取り合ってお互いにとってより良い社会を作っていけたらこれ以上嬉しいことはないし、その実現に向かって少しでも貢献することが僕達の使命だと感じています。
 もっと頑張って、もっと活躍して、いつの日か、『朝鮮民主主義人民共和国代表』のユニフォームを身に纏ってワールドカップでプレーする姿を皆に見せたいです」
  

ーーありがとうございました!改めて優勝おめでとうございます!今後の益々のご活躍を期待しています!!