【韓国Kリーグでチャンスを掴んだ、任良太選手の新たな挑戦】


「プロリーグで活躍し、国家代表になる。」サッカー少年ならば誰しもが憧れ、夢を抱く目標である。ただその道程は、簡単ではなく険しい道であり、たどり着くのは容易なことではない。コツコツと日々の努力を積み重ね、目標に辿り着く選手はごく一部だ。

 世界的にも、イングランド代表のジェイミー・ヴァーディー(プレミア8部リーグでプレーをし、工場勤務をしていた)等は有名な話だ。プロリーグが存在する大多数の地域には、下位リーグが存在し、ステップアップをして最高峰のカテゴリーでプレーを選手達は目指している。その過酷なステージで、単身海を渡り競争の激しい韓国のセミプロリーグK3で、5年間夢に向かいチャレンジし続けている在日コリアンフットボーラがいる。

任良太選手だ。

在籍3年目でのターニングポイント

 任選手は、西東京第二朝鮮初級学校、神奈川朝鮮中高級学校を卒業し、朝鮮大学校サッカー部でサッカー漬けの生活を過ごし、大学卒業後の現在JFLリーグに所属している東京武蔵野シティの前身となる「横河武蔵野フットボールクラブ」に入団する。

 アマチュア最高峰のJFLリーグに所属するほとんどの選手が、仕事をこなしながらトレーニングに打ち込むルーティンで生活を行っている。任選手も、横河武蔵野フットボールクラブでは、午後17時まで会社で勤務をし、19時からトレーニングをするという生活をしながら、一つでも上のステージを目指す2年間を過ごした。

 そして、チーム在籍3年目を迎える時、任選手のターニングポイントを迎える。チームに韓国から練習生で来た時である。練習生と一緒に日本に来ていた韓国人エージェントと、韓国語でコミュニケーションを取りながら色々と韓国のサッカー事情やKリーグの話など情報交換を交わした。そこで、韓国への挑戦の話を貰い、知人の選手と共に海を渡ることを決意する。


自身の力で勝ち取ったプロ契約

 現在、隣国韓国のサッカー組織図を見ると、韓国最高峰のK1リーグ、その下のK2リーグまでがプロリーグとして存在し熾烈な昇格、降格争いを繰り広げている。

 その下のカテゴリーには、2003年から始まった実業団で構成されたナショナルリーグと、2007年に始まったK3リーグが存在した。しかし、2015年度に大韓サッカー協会が新しい組織図を発表し、2020年までにナショナルリーグとK3リーグを統合し、昇格制のために新しいアマチュアリーグの発足を発表した。2017年からK3リーグが2つに分かれ昇格、降格制度を施行し、長期的には各市や郡などの852チームが参加できる7部リーグ制を導入しようとしている。すぐには難しいが、導入として3,4部をセミプロとし7部まで昇格制を導入し、最終的には1部から下部リーグまでの昇格制度を構築させることを目標として掲げている。

 現在は、K3、K4でもチームが宿舎を選手達に無料で提供し、衣食住には困らずに団体生活をしながらサッカーに集中出来る環境は整えていている。年俸契約選手を複数人保有しなくてはならない等の規定もあり、選手により差はあるがトレーニング手当や勝利給をチームから受け取りながら生活する選手も多い。


 任選手は、単身韓国に来てからK4リーグに所属する「楊平FC」に入団することとなる。韓国国内サッカーは、フィジカルに長けており、力強いプレーを持ち味とする選手が多い。

 その中で、任選手は韓国の選手よりも長けている自分のストロングポイントを磨き続けた。センターバックを主戦場としながら、最終ラインからしっかりとゲームを組み立て、ビルドアップを展開し、効果的な縦パスを供給する自分の長所をチームで披露し、フィジカル重視の中でプレー1つ1つの質の高さを認められ、チーム内でも地位を確立していった。

 チームには無くてはならない存在となった任選手は、韓国2年シーズン目に年俸契約を勝ち取り、より一層サッカーに集中できる環境の中で生活を送ることになる。

 国内FAカップ(大韓サッカー協会に登録している、プロ・セミプロ・アマチュアが参加する大会)では、格上の韓国警察を母体とした牙山ムグンファFCと対戦し、キャプテンとしてチームを勝利導き自身の力を証明してみせた。

チャンレンジ出来る刺激的な場所

 任選手は、楊平FCで4シーズンを過ごし、2020年シーズンからはK3リーグの「春川市民サッカー団」に移籍し新しい環境でスタートを切る事となった。チームはリーグ降格と悔しい結果に終わってしまったが、来年への奮起が期待される。

 任選手は韓国での経験を話してくれた。「自分は韓国での在日の在り方などは正直あまり考えたことがないです。民族学校でウリマルを習い、韓国である程度のコミュニケーションをとれるところは武器だと思います。言葉の選び方や、単語の違いなど、多くの言葉をしっかり覚えるのにも凄くいい経験をしています。」

 また、韓国に来る前は知らなかった人の情の厚さやサッカースタイルも自身の経験

 最後に、若い選手達にもチャレンジする大切さと難しさを話してくれた。

「若い在日の子たちが、文化も言葉もサッカーも学びチャレンジするには、すごく刺激的な環境ではないかなと思います。歳をある程度取ってしまってからのチャレンジは、なかなか難しいので、若いうちは日本から飛び出してサッカーをするという経験がとても大切だと思いました。ただ、サッカーの面では、日本での経歴がないとまだまだ評価を受けるには厳しい部分もたくさんあります」


 任選手は、2018年に改正された兵役問題で、韓国でのプレーも2021年シーズンで日本への帰国が余儀なくされている。残りの1シーズンでどのような活躍を披露出来るかで、次の舞台の切符を勝ち取れるか決まってくる。

 必ずは次の切符を勝ち取り、韓国での最終シーズン