もう一度「夢と希望と感動を」/再出発を切ったFC KOREA


 同胞青年らで構成されるFC KOREA(02年発足)は12年に全国社会人サッカー選手権大会で、13年に関東1部リーグで優勝するなど「関東社会人リーグ屈指の強豪」と呼ばれる実力を誇っていた。しかし近年は深刻な低迷が続き、クラブの存続すら危ぶまれるようになった。この危機的状況を乗りこえようと、2019年シーズンは全盛期を支えたOBらを中心にして体制を刷新。選手、監督らはクラブ再建に向け、不退転の覚悟で闘っている。 


クラブのあるべき姿

 時計の針は夜8時を回っていた。照明が灯った東京朝高のグラウンドに、尹星二監督(39)の檄が飛ぶ。 

  「一本も気を抜くんじゃないぞ!」 

 数日後にリーグ戦を控えたこの日、練習の終盤ではセットプレーを入念に確認していた。何本目だったか、集中の糸が切れたように選手たちの足が止まり、ゴールネットが揺れた。守備に回っていた崔光然主将(31)がすかさず叫ぶ。「何しているんだ! 本番ではありえないだろ!」。弛緩した空気が、一瞬にして張り詰める。 

 今季新たに監督と主将に就いた2人はFC KOREAを退団した後古巣に戻った、いわば「カムバック組」だ。 

  JFL・横河武蔵野(現・東京武蔵野シティ)での選手生活(03~07年)を経て08年にFC KOREAに移籍した尹星二監督は、加入当初こそクラブの存在意義を深く実感していなかったと明かす。しかし一時的にチームを離れていた12年、全国社会人サッカー選手権大会で快進撃を続けたFC KOREAの姿に感化され、復帰を決意。「『在日サッカー界のトップチーム』でプレーする誇り」を胸に16年まで第一線でピッチに立ち続けた。

 一方、崔光然主将は朝大を卒業した10年から6年間FC KOREAに所属し、14~16年は主将としてチームを牽引した。全国社会人選手権やJFL昇格がかかる「全国地域リーグ決勝大会」で受けた同胞たちの熱い声援。地方遠征の際に指導にあたった朝鮮学校の児童、生徒たちの喜ぶ姿。多くの期待を背負う中で、崔主将は「クラブのあるべき姿」を常々思い描くようになった。  

 「幼い頃に憧れを抱いた『在日朝鮮蹴球団』のように、同胞たちに夢と希望と感動を与えられるクラブにならないといけない」 その言葉通り、2010年代初めまでのFC KOREAは目標の「JFL参入」に十分手が届く実力を持ち、同胞たちの注目度も高かった。  


どん底で見えたもの 


 ところが、ここ数年は理想と現実の距離が徐々に離れていく。 主力メンバーの引退や選手の入れ替わりが続く過程でチームの成績は下降線をたどり、16年は関東2部に降格。一度狂った歯車は簡単には噛み合わず、17年にもカテゴリーを落とした。東京都1部リーグに臨んだ昨季は練習に最低で5人しか集まらず、OBたちの力を借りて試合に臨まざるをえない状況だった。リーグ戦15戦11敗で16チーム中15位。散々な結果で3年連続降格という憂き目を味わった。

 ピッチ上のパフォーマンスを見た時、低迷の原因が実力不足にあるのは明らかだった。一方でOBらの目には、「選手たちのプレーからクラブの根幹を成すべき『精神的な部分』が欠落しているように映っていた」(現マネージャーの洪泰日さん、31)。 

 「なぜFC KOREAが存在するのか」 

 クラブ関係者たちは改めて原点を見つめ直した。そして「在日コリアンによる、在日コリアンのための、在日コリアンサッカークラブ」というコンセプトを明確に据え、同胞たちにもう一度「夢と希望と感動を」与えようとのスローガンを胸に刻んだ。

 昨季に復帰した崔光然主将、洪泰日さんらが中心となり、クラブの理念に沿って戦えるメンバーを募った。その結果、前述の尹星二監督だけでなくMF朴世訓(33、08~15年)、GK康成宇(30、12~15年)、MF李智星(31、11~12年)選手らOBたちが復帰を決意した。他チームから移籍してきた者、現役復帰を決めた者など経緯はさまざまだが、古巣に対する思いは一つだった。 

 朝高、朝大、他チームから移籍してきた若手選手らの存在も戦力アップにつながった。昨年度に朝大を卒業した崔希正選手(22)は「他の社会人チームでプレーする選択肢も考えたけど、同じ同胞選手たちとともに上を目指してみたかった」と話す。  

 さらには「ベテラン勢のサッカーに取り組む姿勢が若手にとって大きな刺激になっている」(慎鏞紀選手、26)。チームを取り巻く風向きは変わりつつある。 


JFL参入と「2061年」

 是が非でも結果が求められる今季、崔光然主将は「必ず東京都1部に昇格してみせる」と力をこめる。尹星二監督はチームを「常勝軍団」に作り上げるため、選手たちのプレーはもとよりピッチ外の些細な部分に関しても一切の妥協を許さないつもりだ。  

 クラブが目標に掲げるのは「JFL参入」。その過程で、FC KOREAから羽ばたきJ1の横浜F・マリノスのレギュラーに定着したGK朴一圭選手(29)のように、日本や世界で活躍する選手を輩出していこうとしている。 

 志を高く持ちながらも、その眼差しは在日サッカー界の未来を担う次世代に向けられている。選手らは5月の連休期間に東京朝高学区の学校を訪問し、サッカー部を指導。今後は各地を遠征で回り、各朝高や地方蹴球団との交流試合を行なっていく予定だという。

 再出発を切ったFC KOREAにはもう一つの目標がある。それはクラブを強化発展させ、2061年まで在日コリアンサッカーチームを必ず存続させること。 

 「2061年」 この年は、在日朝鮮蹴球団の結成から100年目にあたる節目の年だ。 


-朝鮮新報より-