『ストライカーとしての期待と葛藤』栃木SC 韓 勇太インタビュー(前編)  


結果を残すしかない

 朝鮮大学校在学中にインドネシアで行われた「2018年サッカーアジア競技大会」に朝鮮民主主義代表として出場し、チームのベスト8に貢献。朝鮮大学校を卒業後、当時J2の鹿児島ユナイテッドFCに入団。(松本山雅FCからのレンタル)2019シーズンは鹿児島ユナイテッドで35試合に出場し、11得点を記録する。


 ハンヨンテ選手はプロ1年目のシーズンをどのように過ごしたのだろうか。

 プロとしての手応えはあったのだろうか。 

 自身の結果に満足はしているのだろうか。 

 1年目から即戦力として活躍することを求められるのが、プロの世界。 

 そんな中、彼は35試合に出場し、11得点を記録している。世間的に見れば、「プロ1年目」としての“まずまずの結果”を残したといえるだろう。 

 しかし、彼の中には「ストライカー」としての葛藤があった… 


【プロ入りと同時に湧き出てきた悔しさ】


ーー昨年は鹿児島ユナイテッドFC(松本山雅からのレンタル)で、プロ1年目のシーズンを送ったヨンテ選手ですが、「プロ1年目」を迎えるにあたってどのような意気込みを持ってシーズンに挑みましたか?  

 「当時J1に昇格した松本山雅FCから内定を頂き、鹿児島ユナイテッドFCへのレンタル移籍が決まったんですけど、松本山雅から『今は戦力外だよ』と、告げられたような感覚で。プロになれたことは率直に嬉しかったんですけど、すぐに鹿児島ユナイテッドにレンタルに出されたのが悔しかったですね。ただ、その現状は自分で変えれるポイントではないし、自分で自分を評価することは出来ないので『結果を残すしかない』という気持ちにすぐに切り替えることができました。そういった意味では、プロになって嬉しいという気持ちよりも、『周囲をギャフンと言わしたい』という側面が強かったです」 


 ーーそのような「鬱憤」を抱えた状態でシーズンが開幕したんですね。ちなみに、その「結果を残すんだ」という意気込みを持ったうえで、鹿児島ユナイテッドFCに合流し、感じたことはありましたか?  

 「やっぱりプロはプロで、うまい選手が多かったですし、特に鹿児島ユナイテッドは技術的な選手が多かったので、自分のスタイルをこのチームに合わしていく作業は簡単なことではないのかなと思いました」  


ーーチームのスタイルを把握したうえで、いかに「自分のスタイル・個性を発揮するのか」という部分ですか? 

 「そうですね。そういった意味では昨シーズンを通して自分が理想とする個性を発揮出来ていた期間は、チームに合流してから開幕数試合くらいだけです。この期間がいちばん自分の個性を出せていましたね」  


ーーなるほど。確かに開幕戦の「vs徳島ヴォルティス」ではスタメン出場・プロ初ゴールを、2節の「vs京都サンガ」でもゴールを決め、開幕2試合連続ゴールを記録しています。「結果を残すんだ」という意気込みのうえでのこの結果。心情的にはどうでしたか?  

 「開幕前から『俺は出来る』と思ってはいたものの、実際に始まる前っていうのは多少の不安があるし、不確かな部分も多いので。『本当に自分は出来るのかな』と。そういった中での2試合連続得点は正直嬉しかったです。この調子を続けることが出来たら、早い段階で次のステップに進めるんじゃないかと思いましたね。ただ、それは慢心であり、勘違いでしたね」 「いや、厳密に言うと勘違いでもないかもしれません。今振り返ってみると、開幕数試合のあの個性をシーズン通して貫くことが出来ていれば、結果的に11得点を取れていたかは分からないけど、もっと『インパクトのあるゴール』は取れていたと思います。それが出来ていれば、さらなるステップアップを実現出来ていたのかもしれません」 


ーー「インパクトのあるゴール」ですか。ちなみに、ヨンテ選手はシーズン通して「インパクトのあるゴール」を10得点挙げるのか、「簡単なゴール」を20得点挙げるのかという2つのパターンがあるとするなら、どちらを選択しますか?  

 「どちらかと言われれば僕の理想は『インパク卜のあるゴール』を10得点ですね。今年は『1試合に1得点』という目標を掲げましたが、ここの部分はコロナの自粛中に考えたりしましたね」  


ーーどんなことを考えたんですか? 

 「例えば、昨シーズンは全ての得点がインパクトの無い得点でしたし、味方のアシストありきでの“簡単なゴール”が多かった。“そこのポジションにさえ立てていれば決めれるようなゴール”が多かったから、その得点の内容にも、シーズン11得点という結果にも自分はまったく満足出来ていません。個人の力で2−3人をぶち抜いて強烈なシュートを叩き込むような得点を5得点だけでも取れれば、状況は変わるのかなと思うので。ただ、難しいですね…」 


 ーー理想と現実のギャップですか。 

 「結局、“簡単なゴール”でも20点決めれる選手は凄いし、そういう選手が長年生き残ることになります。当たり前なんですけどね。でも、そういう選手が上に行くことは間違いないけど、そんな選手って長く緩やかに駆け上がっていく印象があるんですよ。僕は正直それが嫌で。今の現状にも満足はしていないし、一歩でも早く上に駆け上がりたいという理想を持っています。だからこそ、単独の力を今年は試したいと思っていて、それで駄目なら『何が足りなかったのか』を分析すればいいだけなので、この形が自分に合っていると今は判断しています」 


 インパクトのあるゴールが決めたい。  

 そうすれば、より自身のステップアップへと繋がるのではないのか。 

 どの道を選択すればいいのか。 

 どの道が自分を真のストライカーへと導いてくれるのか。 

 後編では、そんな「ストライカーとして葛藤」を抱えたヨンテ選手の原点を探り、どのようにしてこの「葛藤」に立ち向かっていくのかを聞いていきたいと思う。