「リーグ最高のアタッカー」 韓国K2で得点ランキング1位/東京朝鮮高校出身の大型FW安柄俊選手


 新型コロナウィルスの影響で、本来の予定から約2カ月遅れで開幕(5月8日)した韓国プロサッカーKリーグ。今シーズンは開幕延期により、1部、2部ともに試合日程が縮小されて行われている。そんなKリーグで鮮烈な輝きを放っている在日同胞選手がいる。K2(2部)の水原FCに所属しているFW安 柄俊選手(30)だ。


 Kリーグ2年目の今季は開幕からスタメンで起用され、9節終了時点(7月10日)で8得点3アシストを記録。得点ランキングで先頭を走り、アシストランキングでも同率1位につけている。開幕戦で遠目の位置から無回転FKを沈めたように、中・長距離のシュート能力はピカイチ。183㎝の身長とジャンプ力をいかし、空中戦も得意とする。その持ち味をいかんなく発揮する今季は、韓国メディアから「K2リーグ最高のアタッカー」と高く評価されている。 


朝鮮代表として国際大会に


 韓国では安選手の出自にも注目が集まっている。日本で生まれ育った在日3世で、国籍は朝鮮籍。東京朝鮮高校2年生の頃には、韓国で行われたU-17W杯に朝鮮民主主義人民共和国代表(以下 朝鮮代表)として参加した。関東1部リーグの強豪、中央大学では2年で関東大学選抜の韓国遠征メンバーに選ばれた。この時、安選手は大学関係者から国籍の変更を打診されたが、一切の迷いもなく断ったという。「朝鮮代表としてプレーすることに誇りを持っていたから」。


 2011年3月に国際親善試合のイラク戦でA代表デビューを飾り、同年6月にはロンドン五輪予選にのぞむU-23朝鮮代表に選出された。2年前に東京で開催されたEAFF E-1サッカー選手権(東アジア選手権)にも出場し、地元・東京の同胞たちが声援を送る中、全3試合でピッチに立った。


 ポテンシャルとは裏腹に、Jリーグの舞台では目立った活躍を見せられなかった。2013年に川崎フロンターレに入団したが、膝のケガに悩まされて十分なプレー機会は得られず。期限付き移籍でプレーしたジェフユナイテッド市原・千葉(15年)やツエーゲン金沢(16年)でも満足のいく結果を残せなかった。それでも、17年に完全移籍したロアッソ熊本では1年目に33試合で7ゴール、2年目に36試合で10ゴールを記録してみせた。


 その活躍が認められ、K2の水原FCからオファーを受けた。「正直、日本以外の国で選手生活を送ることになるとは考えてもいなかった」。それまでは韓国サッカーについても、あまり知らなかったという。安選手は家族や知人らに相談を持ちかけた。とりわけ高校生の頃に知り合い結婚した妻とは、時間をかけて話し合った。2人の間には、まだ幼い2人の子どもがいた。「長男は言葉を喋り始めた歳だった。韓国に生活拠点を移した時、息子が友だちとうまく意志疎通できるか心配だった」。


 韓国行きを決断した最終的な理由は、家族の体に「民族の血」が通っていることだった。「夫婦ともに高校まで朝鮮学校に通いながら朝鮮語を学んだ。言葉が話せるということは、やはり大きなアドバンテージだった」。心配していた息子は言うと、「韓国で生活を始めた当初こそ韓国語だけの生活を難しそうにしていた。だけど何日か幼稚園に通うと楽しそうにしていて、すぐに言葉も覚え始めた」。息子の適応力は「本当にリスペクトする」と安選手は笑う。


 移籍前には元朝鮮代表の安英学さんと鄭大世さんにも相談したという。過去に2人が、水原FCとホームを同じくする水原三星ブルーウィングスに所属していたからだ。親交のある先輩たちからは「水原という街はいいところで、Kリーグは一度チャレンジしてみる価値のあるリーグだ」とのアドバイスをもらった。


新天地での挑戦


 海を越え、新天地での生活がスタートした。移籍1年目は17試合で8ゴール。結果だけ見れば評価に値するが、本人としては怪我に悩まされ本領発揮とはいかなかった。 

「戦線を離脱していた期間、チームが勝てない時期が続いた。シーズン後半戦に向かうにつれ重要な試合が増えていく状況だった。チームが奮闘しているのに力になれず、苛立った時もあった。試合を観ながら、早くピッチに立ちたいとずっと考えていた」 

 これまで何度も負傷を経験してきたが、昨季は足首など身体の各所が悲鳴を上げ、膝にメスを入れた。「サッカーキャリアの中でも大きな負傷だった」。ケガと向き合う中で改めて自身の身体について考え、ウェイトトレーニングを強化。フィジカルコンディションのケアに多くの力を注いだ。 


 こうして迎えた2020年シーズン、安選手は開幕から飛ぶ鳥を落とす勢いでゴールを量産している。水原FCの総得点は20点。そのうち半分以上のゴールに絡み、6勝3敗で首位に立つチームで絶対的な地位を確立している。

 安選手は「昨季に比べて精神的に成長していると実感できている」としながら、好調の要因に「コーチ陣のアドバイス」を挙げる。「監督からは、ピッチでファウルを受けても平然を装うように言われている。『試合中にヒートアップすると集中力が落ちて損するぞ』と。その言葉を意識しながら、ピッチで全力を出している」。今年で30歳を迎えたが、安選手はいまだ成長過程にある。


 試合中にはゴールを狙いながらも、献身的にボールを追う姿も見られる。Kリーグには、助っ人として加入する外国人FWが多い。その中で評価を勝ち取るために、安選手は「攻撃だけでなく、守備の局面や運動量でも違いを作らないといけない。チームのために汗をかき、同時にゴールやアシストを決めることが理想的なスタイルだ」と話す。

 活躍に注目が集まるにつれ、メディアへの露出度は日増しに増えている。インタビューでは度々、朝鮮代表への復帰に関する質問を受けるという。このことに対して安選手は、率直な思いを打ち明けた。

「常に高いパフォーマンスを見せていれば、代表チームに選ばれるかもしれない。だけど、代表に選ばれるためにクラブで頑張るという考えは持っていない。代表チームに召集されないからと言って意気消沈することもない。今は水原FCというチームで頑張りたい。ここでK1に昇格したいという気持ちを強く持っている」 

 練習中やインタビューでも笑顔を絶やさない安選手。その明るいキャラクターとフォア・ザ・チームの姿勢、そして何よりピッチ上で見せる貪欲な姿勢に、多くの韓国のファンたちが心を掴まれている。