【J3“無敗首位”ブラウブリッツ秋田の精神的支柱 韓浩康】-J2昇格を果たして希望を与えたい-


 J3ブラウブリッツ秋田の強さは本物だ。開幕12試合で10勝2分と既に首位チームとしての貫禄を醸し出している。(※取材日:9月4日)
 全選手がハードワークを徹底し、例え相手にボールを保持されようとも慌てる素振りは一切無い。前線では相手をかき乱すハイプレスを仕掛け、自陣では屈強な男たちが毅然と相手の攻撃を待ち構える。フィジカルサッカー一辺倒な訳ではなく、かといってポゼッションサッカーを押し出している訳でもない。全ては目の前の試合に勝つ為のサッカーをしている。

 そんな秋田のサッカーを最後方から冷静且つ情熱的に体現する在日コリアンフットボーラーがいる。DF韓浩康(ハン・ホガン)だ。186cm80kgの体格を活かしたアグレッシブな守備が特徴の韓はこれまで12試合中11試合に先発出場し、セットプレーではヘディングから3得点を叩き出すなど、攻守両面においての支柱的存在である。2016年に秋田に加入し、これまでのチームの紆余曲折を経験している韓は、今の躍進をどのように分析しているのだろうか。
試行錯誤を繰り返したからこそ、今のスタイルがある。

 

 「試合を見ていて負ける気がしない」。今シーズンの秋田にはそう思わせる安定感と勝負強さがある。1人残らずした全選手がアグレッシブに戦い、目の前にあるタスクを完璧にこなせている。その徹底ぶりについて「監督が守備戦術に関してブレずに自信を持って提示してくれるから、選手からしても意識を統一させやすいし、守備の部分で主導権を握れるからこそ、試合を優位に運ぶことが出来ている」と韓は分析する。
 例えボールを保持されていたとしても、「ボールを持たせている」という価値観を共有し、高いメンタリティを保つことによって、試合のリズムを掴んでいくのが今シーズンの秋田のチームカラーだということだ。

 その中でも守備面における韓の貢献度は高い。攻め込まれる時間が長い時でも焦る事無く相手の攻撃を冷静に処理し、チームに安定感をもたらしている。守備をメインスタイルとするチームで、守備の要としての役割を任された韓は、どのような事を意識し、相手と対峙しているのだろうか。

 「相手の特徴や、組む味方の特徴によって細かく変えますが、僕が特に意識していることはポジショニングです。ポジショニングや身体の向きなど、その時に適した正しい対応が出来ていたら余裕を持って防ぐ事ができますし、足を出すことなく未然に防ぐ守備が理想です」と守備における心得を話してくれた。その中でも「今までに何度も抜かれて、何度も失点して、その度にただ落ち込むだけではなく、どうすれば防ぐ事が出来たのかと思考錯誤を繰り返してきたからこそ今のスタイルがある」と、決して初めから出来た訳ではないと謙遜する。

チームメイトや監督からの信頼。キャプテンマークを託される事も。
 
 秋田のような全員守備・全員攻撃をする為の必須項目は攻撃陣のハードワークである。ましてや、今シーズンの秋田はハイプレスからボールを奪い、ショートカウンターを仕掛けることによって結果を残せている。そうなると、結果を残せている安堵感からか、攻撃陣の守備意識が軽薄になってしまうという現象が起きがちであるが、そこで攻撃陣を鼓舞し、正しい方向に導いてあげることが韓に求められている。

 「前線の選手がボール保持者に対してしっかりアプローチを掛けてくれている。そうしてくれることによって僕達DF陣の守りやすさは格段に変わりますが、それでも人間は楽な方に流れてしまうものです。だからこそ、後ろで守る僕達から的確なコーチングを出して、前線の選手を鼓舞することが大事だし、監督からもそこの部分を求められています」
 今シーズンは韓がキャプテンマークを巻く機会が幾度かある。「チームを勝たすことの出来るDF像」をテーマに戦ってきた韓のその姿勢が、チームメイトや監督からの信頼へと変わり、今のポジションがある。

 「チームを活気付ける、チームを勝たすことの出来るCBということをテーマにやってきたし、そこの部分での信頼をチームメイトや監督からも感じます。キャプテンマークを託されることは光栄だし、信頼に繋がっていること自体が嬉しく身が引き締まります」

2017年以来のリベンジなるか…「今の秋田は昇格するチームの雰囲気を持っている」
 
 秋田は2017年にJ3優勝を果たしたものの、その当時の秋田にはJ2に参入するためのクラブライセンスを保持していなかったため、昇格が見送られた。しかし、今の秋田にはJ2に参入するためのクラブライセンスが交付されている。優勝すれば、J2に昇格する事ができるのだ。

 「チームの雰囲気は申し分ないです。これ以上無い結果が出ているし、昇格出来るチームの雰囲気を持っているということも自覚している。でもこのままスムーズに行けるとは思っていないし、調子が良いからこそ対策もされるようになってくる。昇格する為にはよりクオリティも上げていかないといけない。周囲からの期待を感じるのも事実だけど、サッカー選手として真面目に毎日の練習に取り組みたい。最終的にはサッカーにどれだけ向き合えたのかという姿勢の部分が結果に繋がってくると思うので、結果に囚われず、過程に真摯にこだわっていきたい」と、自身の帯を絞め直した。

在日コリアンの魂を持って闘い、皆に希望を与えたい。
 韓は朝鮮大学校を経てJリーグの舞台へと足を踏み入れた在日コリアンJリーガーだ。その道程は険しいものだったが、“何くそ根性”でここまで這い上がってきた。
 そして、韓のこれまでの道程同様に、Jリーグの世界に夢を抱きながら、ひたすらにボールを追い掛ける在日の同志が全国にいる。
「決してエリートではなかった」と話す韓が、秋田の地で一歩ずつステップアップしていく姿に、希望を抱けずにはいられない。
 
 「自分はエリートではなかったし、多くの挫折を経てきたと自負している。だからこそ、同じような環境にいる人達に希望を与えることが出来ると感じているし、同じくプロを目指している選手達にも、ウリハッキョ(日本にある朝鮮学校)で育った僕が活躍することによって、与えられる影響があると感じています。僕はヨンハッヒョンニン(元Jリーガー 安英学氏)を見て、ここまで来ました。ヨンハッヒョンニンは倒れてもすぐに起き上がるし、闘志むき出しでプレーしていた。僕がヨンハッヒョンニンの闘志に魅せられたように、僕もコリアンの魂を持った生き様を見せれるようになりたいです」
 
 力強く抱負を語った韓は最後に、「今度はJ2に昇格した時に取材をお願いします」と、誓ってくれた。
 その約束が果たされることを期待し、これからの韓とブラウブリッツ秋田の躍進を応援したい。