FC徳島 高志煌「そんなに甘くはなかったプロへの道」挫折を経た今だからこそ言いたい事とは…


FC徳島で奮闘し続ける一人の在日コリアンフットボーラー
 2017年1月。徳島ヴォルティスにスペイン人の知将リカルド・ロドリゲスがやってきた。彼はスポーツ科学の博士号を保有しており、サウジアラビアのナショナルチームやタイのクラブでの指揮経歴を持つ。そんな異色な知将はアグレッシブで魅力的なサッカーを哲学とし、徳島ヴォルティスはスペクタクルなサッカーを披露し続けるようになった…

    

 そして、徳島の地には徳島ヴォルティスに匹敵するようなアグレッシブでスペクタクルなサッカーを武器とするクラブがもう1クラブ存在する。更にはそのクラブでサッカー選手として奮闘し続ける一人の在日コリアンフットボーラーがいた。今年でFC徳島でのプレーが3年目となる、高志煌選手だ。

     

 彼は東京朝鮮高級学校サッカー部でも、朝鮮大学校サッカー部でも、FC徳島でもキャプテンを務める。しかし、高志煌選手は自身のことを「凡人」だと評す。「高校時代はプレーで引っ張るようなカリスマ的キャプテンに理想像を置いていましたが、能力も規模も大きくなった大学サッカー部でのキャプテン経験を経て、自分に合ったチームのまとめ方を見つける事が出来ました。僕は才能があるタイプではない凡人なので、皆の中に入り込んで時にはイジられながらチームをまとめる方が合ってるなと感じています」

   

 高選手は自身のことを凡人だと言い続けるが、強豪・東京朝鮮高級学校でプレーしていた頃から彼の名は有名だった。中盤ならどこでもこなせる技術を持ち合わせながらチームに対するロイヤリティが高い、誰もが認める中心選手。朝鮮大学校でも1年生の時から主力として試合に出続け、チームの紆余曲折をひたむきに支え続けた。しかし、そんな高選手もプロへの夢をあともう少しのところで掴みきれなかった。


高く立ちはだかったプロの高い壁


 「少し恥ずかしい話ではありますが、その当時は当たり前のように自分はプロになると信じていましたし、プロになれるかなれないかよりも、プロになった後にどういったキャリアを築いていくのかを考えていました。でも、大学を卒業するタイミングでプロにはなれなかった。その時はかなりショックで、なかなか気持ちの整理がつかなかったですね」   
 しかし、高選手はプロへの高い壁を感じショックだったと述べながらも、今もボールを追い続け、サッカーに懸け続けている。その理由を「それまでに応援してくれた方々や同期の存在が大きくて、まだまだサッカーに懸けてみようという気持ちを持つことができたからだ」と話す。


 大学を卒業後、関東社会人リーグに所属するVONDS市原に入団し、その翌年に現在プレーするFC徳島に移籍した。FC徳島はポゼッションスタイルを強みにするクラブだ。その中で高選手はどのような役割を求められているのだろうか。

 「主にはウィングバックで出させて頂いていて、チームのポゼッションがより驚異になるようなスプリントだったり、チーム全体の幅を広げられるようなプレーを心がけています。日本のサッカー界の中で僕たち在日がどのようなことを求められているのかという点でも感じることがたくさんありますね。例えば日本サッカー界にはうまい選手がごまんといるという事。技術レベルが高いなかで僕たちが同じ闘い方をしても日本の選手の中に埋もれてしまう。だからこそ僕たちにしか出来ない“魂”と“フィジカル”で闘うことが大事だし、その部分が実際に求められるところでもあります。そういった意味でも、“闘う”というベースのうえに日本サッカーの中に入っても埋もれないような“うまさ”を持ち合わせた僕の大先輩たちは凄いです」

   
 学生時代の高選手にはプロのリアルを知り、練習試合を交えるなかで通じる部分と通じない部分を精査する機会があった。それでもプロにはなれなかったのだから、漠然とした想像だけでは決してそれに近づくことは出来ない。「プロになるのは簡単じゃないし、そこで活躍することはそれ以上に難しい。だからアマチュアとプロにはどういった違いがあるのかを感じて知ることが大事だと思います。自分は何を持って勝負するのか、そしてその部分をプロの世界でも通じるレベルまでに磨かないといけない」。その難しさを痛感しているからこそ、在日サッカーを牽引してきた大先輩たちへの尊敬を忘れない。

FC徳島で奮闘し続ける在日コリアンフットボーラーの挑戦はまだまだ続く
 高選手は自身のセカンドキャリアについて「何をしているかは分からないけど、どんな形でもいいから在日の為に貢献できることを探したい」と話してくれた。

   

 「僕たちが学生の頃もそうなんですが、東京朝高サッカー部や朝大サッカー部の活動を行っていくにあたって相当な数のOBや関係者の方々が支援してくれていました。今でもその支援の輪は大きく広がっているのですが、学生時代はそれらがどのように形作られ、どのように受け継がれていったのか、いまいちイメージが出来なかった。でも、今となっては少しずつ分かるようになったし、学生時代にしてもらってたような支援を今度は僕たちがしてあげられるように頑張りたいと思っています」
  
 そして、「これからもサッカーで上を目指す」と高選手は力強く宣言してくれた。頭の片隅には在日サッカー界への想いを巡らせながら、まだまだサッカー選手としてのキャリアアップを諦めていない。そしてその過程が在日サッカー界の為になればと強く願う。

 FC徳島で奮闘する一人の在日コリアンフットボーラーの挑戦はまだまだ続きそうだ。