【在日コリアン初の台湾リーグで奮闘する 文泰樹選手】国の数だけサッカーのリーグがある。


 新型コロナウイルスの影響が世界各地に拡大する中、東アジアサッカー界にも多大な影響を及ぼしている。

 日本のJリーグでは約4カ月の中断期間を経てから、7月から(J2は6/27)無観客試合で再開したが、満員のスタジアムで試合に熱狂出来る日はまだ遠そうだ。韓国のKリーグでは、日本よりも早い5月に無観客試合から再開し、入場制限付きで対策もしっかりしていたが、コロナの再拡大の影響で8/16より首都圏では再び無観客試合となり、中国では7/25にリーグ再開となった。

 東アジアの象徴的3カ国のリーグが再開したものの試行錯誤の状態が続く中、世界的にも注目を浴びたのが台湾リーグである。台湾で人気の高いプロ野球と同時日の4/12に、アジアでの一番早く無観客ながら台湾サッカーリーグも再開された。その中に、在日コリアンとして初めて台湾リーグでプレーする男が居た。文泰樹選手だ。

 今回は、タイ、ドイツ、日本、そして4カ国目の台湾でのプレーを自らの行動力と実力で勝ち取った文選手に話を伺った。

色々な世界を見て常にチャレンジ


 大阪朝鮮高級学校、大阪産業大学で学生時代プレーをした文選手は自らを「決してトップレベルの選手ではなかった」と話す。大学時代には相次ぐ怪我により、サッカーに対しての気持ちが切れかかった時もあったそうだ。

 そのような不安定な気持ちの中、ある大会が自分を大きく変えてくれたという。韓国で行われている全国体育大会(日本の国民体育大会)である。全国体育大会は、毎年10月に開催され国内16都市・道の代表選手団、及び在外国民約20,000人が参加する大会である。そこに大学在住中に、在日同胞代表団の選手として文選手も参加したのである。

 文選手はこの大会で、代表団関係者やスタッフ、チームメイトと生活を共にする中で多くの刺激を受けながら、タイや他アジアのリーグ事情など自身の進路に関わる情報交換を積極的に交わし、“世界は広い。もっとサッカーを通じていろんな世界へ挑戦したい“と感じたという。

 そして大学卒業後、積極的に自ら動き始める。エージェントを通じ、2017年にタイの4部チームNakhon Sawan FCに入団を果たすと、翌2018年にはドイツ5部のHilal-Maroc-Bergheim、翌2019年には日本に帰国しJFLのFC大阪でプレーをする。そして今年2020年には、台湾1部の台中Futuroと自らエージェントを通さずチームに直接売り込み入団を勝ち取ってきた。

 彼にいろいろな国を渡り歩いてプレーをし、なぜ今回台湾での挑戦を選んだのかと理由を聞いてみると「サッカーのレベルを成長させたいのはもちろんですが、人間としての成長、更にはセカンドキャリアの為に選んだ。語学的にも学べ日本からも近くこれからの交流、さらにトップリーグでのプレーという点で挑戦を決めた」と語った。

 文泰樹選手が所属する台中Futuroには、過去にFCソウルでプレーし、U-17韓国代表時にはソンフンミン(現トッテナム・ホットスパーFC所属)やファンウィジョ(現FCジロンダン・ボルドー所属)ともプレーした、チュイッソン選手も所属する。

海外でのプレーは、外国人助っ人として結果が全て。

 

 文選手のチーム入団までは苦難の連続であった。自ら台中Futuroに売り込み、今年初めのタイキャンプに帯同した。自分自身手ごたえはあったようだが、キャンプ終了後ビザの問題などがありすぐには返事がもらえなかった。しかし彼は諦めず、単身台湾に渡り自らがチームと再びコンタクトを取る。チームからはピッチ内での実力はもちろんながら、何よりその熱意が評価され、正式な返事をもらった。

 チーム入団を自らの熱意で手繰り寄せたが、新型コロナの影響でビザが下りるまでに時間が掛かり第1クール(8チームのリーグ戦で1クール:7試合)は、出場が叶わなかった。

 第2クール目の6月には、在日コリアン初となる台湾リーグのデビューを果たす。デビュー2戦目には、チームの過半数が台湾代表である高市台電と首位攻防戦を迎える。文選手所属の台中Futuroは、退場者を出し一人少ない状況で苦しい戦いを強いられながらも、試合終了最後のプレーで見事決勝点のアシストを記録し、チーム内での存在感を強めた。

「自分が海外のチームでプレーする時考えているのは、助っ人として常に結果を求められ、結果を残さなければいつでもチームから契約を切られるという危機感を持ってやっている。毎日のこの緊張感を楽しみながら自分自身を向上させようと努力している」と話す。「当然目標はJリーグでプレーをすること。高校、大学と大きな活躍ができなかったとしても、挑戦し続けて、若い同胞の子供達に夢と希望を与えたい。いろんな経験をして、在日サッカーの発展や在日社会に貢献したい」と熱い思いを語ってくれた。

 現在は、台中Futuroでプレーをする傍らスクールなどで台湾の子供達に指導などもしているという文選手。まだまだ台湾は野球人気が強いが、一人一人のポテンシャルと身体能力が高い選手が多いという。個人能力の高さを感じながらも、まだまだサッカー後進国な為、戦術的部分の理解などがこれからの課題だと感じているという。

 台湾での活躍を心から願い、同胞の後輩たちに夢と道を切り開こうとしている文泰樹選手をこれからも注目していきたい。